こどものなかのこども



客観性を無視したマスゲーム的コラム vol.8

Category : Ikenishinji

昨日、4時間も細木のことで電話してしまった。

そういえば、高校時代に一度、鈴鹿8耐ではないが、8時間電話で話し続けたことがある。なぜかは分からないが、途中からギネスに申請しよう的な空気になってしまい、8時間耐久電話(男同士リンリン部門)にエントリーすることになった。最初は、誰が誰と付き合ってるだの、あいつはカワイイだの、あの先コーは糞だのと和やかに楽しく時間は過ぎていったのだが、はっきり言ってそんなもんは数時間も話せばネタが尽きるのである。だから、しまいには人生という貴重な時間と通信費を費やして、学年メンバーの名前をひたすら叫ぶという奇妙な会話を繰り広げることになった。マイナーな生徒を思い出すたび名前を叫び、相手の反応をうかがい、相手が「知らない」といえば、そいつについての情報を与え、そしてマイナーくんやマイナーさんが二人になんとなく共通認識された時点で、そいつらを晴れて学年メンバーとして迎え入れる、というまったく非生産的で残念極まりない会話である。

「森本っ!」

「誰やねん!知らんわ!」

「おったやん!野グソしてんの見つかってから、野口って呼ばれるようになったやつ!」

「ああ・・・のぐっちゃんか」

あの頃、8時間電話することによって世界が少しくらい変わるかもしれないと思っていたのかもしれない。あるいは少しくらい自分を見る周りの目が変わるかもしれないと。だけど結局のところ、どれだけ話したってポンピーたちの会話に結論は出なかったし、森本の名前をのぞけば何ひとつ変わりはしなかった。

もう今はそんなことで電話する暇もないし、もし暇があってもしたくはないが、昨日は久しぶりに長電話をしてしまった。それもこれもすべて細木のせいである。ポンピーはずっと相手の女にいかに細木がクズ子かについて力説し、女は相槌を打っていたのである。

「はっきり言って、あんなもんクソだ!」

「ふんふん」

「インチキじゃねーか、バカヤロー!何えらそうに言ってやがんだ!」

「ふんふん」

「でも意外と本が売れてんのよ。一番本が売れてる占い師でギネスにのってるくらいなんだから」

「ふんふん」

「聞くところによると、総計5300万部だってさ!」

「ほんとすごいよね、あたしも持ってるもん」

「・・・」

つまりそういうことなのである。ポンピーが昔からどれだけ何かを懸命に訴え続けたところで何も変わりはしないのだ。電話してる相手ひとり、女ひとりもアンチ細木にすることはできない。長電話なんてするもんじゃない。世界は変わらず回り続けるのだ。

「えっとねー、ポンピー君は金星人だよ。詳しくいうと、木星人の気持ちがわかる金星人」

「何じゃそりゃあぁぁああぁああぁあああああああああ!ナメとんかっ!!こちとら生粋の日本人じゃ!!百歩譲って日本人じゃないとしても、金星人なわけねぇぇええぇえええぇええええええ!!!!地球人だろーがっ!!!!!」とあの電話8耐以来の叫び声をあげそうになったが、下唇をニギニギ噛んで怒りの感情をやり過ごした。

「そしてあたしも同じ金星人だよ」

「そうなんだー、エヘヘ」

なにか大切なものを失ったような気がした。

「えっとねー、動物占いでいうとポンピー君はコアラだよ」

「そっかー、じゃあポンピーは笹好きの金星人だ」

「キャハハ」

たとえなにか大切なものを失っても、たとえ日本人であることを捨てても、もう一人は嫌なのである。ポンピーはコアラであり、金星人である。ビバ細木!!である。


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