こどものなかのこども



客観性を無視したマスゲーム的コラム vol.7

Category : Ikenishinji

ようやく重い腰をあげ、このコラムを書いている。もうすぐ六月も終わる。GW開けに五月病になるような、そして六月の梅雨空を倦んだ眼差しで見上げるような陰気な男供が夏に向けて筋トレをはじめ、女供が無駄毛処理をする季節である。夏に景気良く彼氏、彼女と渚を走るためには、それなりに引き締まり、それなりに毛並みの整ったボディが必要なのだ。まあポンピーなんかこの時期になると、そわそわしてきて、鼓膜の奥では波の音が寄せては引いている

しかし、ただ単に筋トレをすれば、ただ単に無駄毛処理をすれば、それですぐさま渚を走ることができるかと言えば、それは否である。まず当たり前のことであるが、相手を作らなければならない。これはなかなかに高いハードルである。そこで今から筋トレと無駄毛処理と共にしておかなければならないことがある。ずばり宴会芸を身につけることである。

なんてったって出会いは居酒屋なのだ。合コンも紹介も初めてのデートも行き着く先は居酒屋である。そして終着駅はホテルである。いわば居酒屋という場所はノルマンディー上陸作戦のようなもので、恋人ゲット作戦の重要なウェイトを占め、意中の相手の彼氏・彼女候補に名乗りでることができるかどうかのキーを握る戦いの場なのである。そんな戦場に武器を持たずに行ってどうするのだ?どれだけ脳みそが足りないやつだって戦場に向かうと分かっていたら武器くらい必要だと分かるはずだ。今こそ立ち上がるんだ!武器を持て!今こそ立ち上がるんだ!武器を持て!(好きなだけリフレイン)

別にポンピーは扇動家でもなんでもないから、これ以上しつこくは言わないが、要するに必要なのは宴会芸である。といっても、宴会芸を身につけりゃ良いってもんじゃない。必要なのは武器として使える宴会芸である。あと宴会芸のなかにおやじギャグが含まれていると思っている輩がいるが、宴会芸におやじギャグは断じて入らないことをここに宣言する。

あなた「ねーねーどこ住んでんの?」

女の子「えーと神戸」

あなた「へー、じゃあオナラできないね」

女の子「え?・・・・どういうこと?」

あなた「いやだってあれでしょ?ヘヲコケン(兵庫県)でしょ?」

女の子「・・・」

これでもまだ宴会芸におやじギャグが含まれると主張できる輩がいるならBBSに宴会芸としてのおやじギャグを投稿してこい。(*面白かったらコラムで取り上げます)

おやじギャグは宴会芸に入るか否かはこれくらいにして、本題の武器となる宴会芸について書く。正直なところ、ポンピーも昔から色々な宴会芸を身につけてきた。モノマネ、顔芸、マジック、ジャグリング、占い、一気コール、エトセトラ。だがしかし、これらの宴会芸ははっきり言って武器にならない。なぜなら大抵の人間はこの程度のことができるからだ。やはり武器になるには、その場ですぐには誰も真似できないということが条件になってくる。ポンピーはそういった宴会芸を未だに身につけることができていないが、かつて一度だけお目にかかったことがある。それはキング・オブ・宴会芸、まさにリーサル・ウェポンの名に相応しい代物だった。

その宴会芸を見せられて以降、ポンピーは敗北感とともにその宴会芸をした男に尊敬の念を抱くことになった。その男はポンピーの1個上で、いわゆる部活の先輩だった。ここでは仮にSと呼ぼう。今そのSがどこでどういう暮らし向きをしているのかはまったく知る由もないが、ポンピーは居酒屋で他人のくだらない宴会芸を見るたび、「ああ、あの人の宴会芸がもう一度見たい・・・」と懐かしく思うのである。

その宴会芸とはずばり、「天空の城のラピュタ」のセリフを延々と一から一人でやるのである。モノマネと寸劇を足して二で割ったようなものだろうか。あれを初めて見たときの衝撃といったらほんと鼻からスイカである。

「天空の城のラピュタ」と言えば、宮崎アニメのなかでも人気の高い作品であり、誰もが一度は見たことのある作品だろう。その偉大な作品をSは指でなぞるかのように一からモノマネするのだから周りの食いつきが悪いはずがない。最初ははなんかおっぱじめやがったなーという薄ら笑いのなかで序盤のストーリーが進行するのだが、それが中盤辺りまでくると、みんな宮崎アニメのシーンを頭のなかで完璧に再現しながら聞いている。当のSはときおり身振り手振りを交えながら熱弁し、登場人物が変わるたびに落語のように体ごと向きを変える。そして終盤に近づくにつれ、冷やかしの言葉や笑い声も影を潜め、店内にいる他の客をも巻き込んでストーリーは佳境へと突き進んでいく。

S「(ムスカ発砲)パーン!ピューン!」

S「次は耳だ。ひざまずけ!命ごいをしろ!小僧から石を取り戻せ!」

S「待てー!!石は隠した。シータを撃ってみろ。石は戻らないぞ!」

S「パズー来ちゃだめ。この人はどうせ私たちを殺す気よ」

S「小僧!娘の命と引き換えだ。石のありかを言え。それともその大砲で私と勝負するかね」

S「シータと二人っきりで話がしたい」

S「来ちゃダメ。石を捨てて逃げて!」

S「三分間待ってやる」

S「パズー、シータに近づく」

S「パズー」

S「シータ落ち着いてよく聞くんだ。あの言葉を教えて。僕も一緒に言う」

S「えっ!」

S「僕の左手に手をのせて」

S「シータ、パズーの左手に手をのせる」

S「おばさんたちの縄は切ったよ」

S[二人は抱き合う]

S「時間だ。答えを聞こう」

S「カチャ」

S「んっ!?」

S「バルス!!」

S「ンワガー!」

S「うわー、目が、目がー!あっ、あっ目がぁぁあああ!」

パズーもシータもムスカも、そしてナレーッションもSである。なのに聞いている方は誰が話しているのか混乱することがない。まさに超一流の話芸である。そしてドール海賊団のくだりで物語は終焉し、これまたSによる歌が始まる。もちろん宮崎駿作詞、久石譲作曲の「君をのせて」である。「ナイフ、ランプ鞄につめこんで~♪」のBメロで盛り上がりは最高潮に達し、「父さんが残した熱い思い、母さんがくれたあのまなざし~♪」で肩を組んでの大合唱である。

あの奇異な光景を見てから現在まで、あの衝撃を超える宴会芸にポンピーは出会わなかった。おそらくSは想像を絶するような多くの時間を費やして、この芸を身につけたのだろう。それも当時のSはまだ未成年である。そこがSのすごさだと今になって思う。青い春を生きる我々の誰が「天空の城のラピュタ」を丸暗記し、それを他人様の前で披露しようなんて思うだろうか?その発想と少々粘着質な根気強さにはマジ感服である。

この夏に向けてやるべきことはもう決まりである。もちろん筋トレや無駄毛処理ではなく、宮崎アニメをじっくり味わうことである。

「渚を走るきっかけは宮崎アニメ!!!」

そうSが叫んでから六年ほどの月日が経った。


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